若者むしばむ市販薬 大量摂取、依存症や命の危険も

精神的苦痛から逃れようと、市販薬を大量摂取する若者が増えている。「オーバードーズ(OD)」と呼ばれ、ふわふわとした感覚を得られる一方、覚醒剤や大麻といった違法薬物と同じように依存症に陥るケースも。専門家は「内臓に強い負担がかかり、死の危険性もある」と警鐘を鳴らし、背景にあるメンタルヘルスの不調にこそ目を向けるべきだと訴える。

愛知県の男性(22)は、学校生活のストレスからODを始めた。幼い頃から学校になじめず、中学でうつ病を発症。高校は校則が厳しく、「髪が長い」と何度も叱責された。「抑圧されている」とふさぎ込み、ストレスで声が出なくなった。

居場所を求めるように繁華街のたまり場へ。似た境遇の仲間と一緒に市販の風邪薬を20錠ほど飲むと、平衡感覚を失った。頭がふわふわとし、息苦しさから少しだけ解放された。

ODを繰り返したのは「体に悪いことをしている」という感覚を得たかったから。せき止めや睡眠導入剤なども手当たり次第に飲んだ。

数カ月前、親しい知人が亡くなり「思い出を曖昧にせず、しっかり残しておきたい」とODをやめた。ただ、生きづらさは解消されず、今も残ったままだ。

ODのまん延はデータにも表れている。

国立精神・神経医療研究センター(東京都小平市)によると、薬物依存症の治療を受ける10代のうち、市販薬が原因の割合は2014年のゼロから20年は6割近くにまで増加。首都圏にある3つの救急センターの集計では、薬物の過剰摂取による搬送のうち市販薬の摂取で運ばれた事例は、18年は32件だったが、20年は2倍以上の75件だった。

国立精神・神経医療研究センターの松本俊彦・薬物依存研究部長は、10代のOD患者の多くは非行歴がない一方で、メンタルヘルスの問題を抱えているケースが多いと指摘。家庭や学校で抱える精神的苦痛を緩和するため、市販薬に”鎮静剤”の役割を求める若者が多くを占めると説明し、「薬を無理やりやめさせれば逃げ場を失ってしまう。医師や周囲の人が信頼できる話し相手になり、薬以外の選択肢を持ってもらうことが必要だ」と強調する。

埼玉医大病院臨床中毒センター(埼玉県毛呂山町)の上條吉人センター長によると、市販薬の中には依存性のある成分が含まれるものもあるため「繰り返し摂取すれば薬物依存に陥る危険がある」と警告。製薬会社は依存性のある成分を規制すべきだとし、ドラッグストアなどでの大量購入を防ぐ対策も重要だと話した。〔共同〕

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